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東京地方裁判所 平成2年(行ウ)92号 判決 1993年2月16日

原告

谷口八稜

谷口正枝

右両名訴訟代理人弁護士

黒川浩志

大河原弘

梶山公勇

被告

渋谷税務署長

永井武

右指定代理人

池本壽美子

外三名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一原告らの請求の趣旨

一被告が原告谷口八稜に対して平成元年二月二〇日付けでした昭和六二年二月一四日の相続開始に係る相続税の更正のうち、課税価格一三億三七二九万円、納付税額八億四八七五万一四〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

二被告が原告谷口正枝に対して平成元年二月二〇日付けでした昭和六二年二月一四日の相続開始に係る相続税の更正のうち、課税価格二八九二万円、納付税額一八三七万五〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

第二事案の概要

一当事者間に争いのない事実等

1  本件課税処分の経緯

(一) 谷口一郎(以下「一郎」という。)は昭和六二年二月一四日に八八歳で死亡し、いずれも一郎の養子である原告谷口八稜(以下「原告八稜」という。)及び原告谷口正枝(以下「原告正枝」という。)が一郎を相続(以下「本件相続」という。)した。

(二) 原告らの本件相続に係る相続税の申告とこれに対する更正等の経緯は、別表一及び二の「本件課税処分の経緯」のとおりである。

すなわち、原告らは、昭和六二年八月一三日、本件相続に係る相続税について当初申告をし、更に昭和六三年一二月二三日に修正申告をしたところ、これに対し、被告は、平成元年二月二〇日、右の修正申告の内容に対応する過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定をするとともに、各更正(以下「本件各更正」という。)及び各過少申告加算税の賦課決定(以下「本件各決定」という。)をした。そこで、原告らは、平成元年三月八日、本件各更正及び本件各決定について、被告に対し異議申立てをしたところ、申立後三か月を経過してもこれに対する決定がなかったので、同年六月九日、国税不服審判所長に対する審査請求をしたが、同所長は、平成二年四月一三日付けで、右各審査請求を棄却する裁決をした。

2  本件相続に係る相続税の課税価格の内容等

(一) 被告は、本件相続により原告ら及び受遺者福川正三が取得した財産の価額から債務及び葬式費用を控除して計算した原告両名の相続税の課税価格、納付税額等が、別表三の「課税価格等の計算明細表」及び同四の「税額算出表」のとおりになるものと主張している。

この取得財産等の内容、価額、税額等については、右相続財産を構成する別表五の一の各土地及び同五の二の各家屋(右相続財産を構成する土地及び家屋の内容が右別表五の一及び二に記載のとおりであることについては、当事者間に争いがない。)のうち、原告八稜が取得した別表五の一の符号からまで、からまで及びの各土地、同じく原告八稜が取得した別表五の二の符号④からまでの各家屋並びに原告らが共同で取得した(その取得持分の割合は、土地については原告八稜が一〇〇分の四五、原告正枝が一〇〇分の五五、家屋については原告八稜が一〇〇分の一四、原告正枝が一〇〇分の八六)別表五の一の符号の土地及び別表五の二の符号の家屋(すなわち、別表六の土地及び家屋、以下、これらを総称して「本件評価係争物件」という。)の価額の点を除いて、いずれも当事者間に争いがない。なお、不動産を除く財産及び債務等の価額の内訳等は、別表五の三のとおりである。

(二) すなわち、本件相続によって原告らが取得した財産の価額及びこれから控除されることとなる債務等の金額については、次の限度では当事者間に争いがないこととなる。

(1) 取得した財産の価額

五五億三二一四万四〇九四円

① 土地(本件評価係争物件を除くもの)の価額

五〇億三六〇三万九九八八円

② 家屋・構築物(本件評価係争物件を除くもの)の価額

四二一四万七八七七円

③ 有価証券の価額

一億二四三八万九〇八三円

④ 現金・預金等の価額

二億七八二七万七八九二円

⑤ 家庭用財産の価額

一〇〇万〇〇〇〇円

⑥ その他の財産の価額

五〇二八万九二五四円

(2) 控除すべき債務等の金額

五二億六一六一万三八六六円

二本件の争点

本件の争点は、専ら、本件評価係争物件の相続財産としての価格をいくらと評価すべきかということである。

本件評価係争物件は、別表六の「相続税評価額と取得価額との対照表」のとおり、いずれも生前の一郎が、同表の「契約日」欄記載の日に、同表の「取得価額」欄記載の価額で「取得先」欄記載の相手方から買い受けて取得したものである(この事実については、当事者間に争いがない。)。

課税実務上、相続財産の評価については、「相続財産評価に関する基本通達」(昭和三九年四月二五日直資56・直審(資)17(例規)。ただし、平成三年一二月一八日課評2―4課資1―6(例規)により題名が改められ、現在は「財産評価基本通達」となっている。以下「評価基本通達」という。)の定めるところに従った評価が広く行われており、本件評価係争物件を評価基本通達の定めによって評価すると、その評価額(ただし、後記の川越物件及び上郷物件をいずれも「自用」の物件として評価した額)は、前記別表六の「評価基本通達に基づく路線価評価等の価額」欄に記載されたとおりの額となる(この事実についても、当事者間に争いがない。)。

ところが、本件評価係争物件について、被告は、その取得の経緯等からして、その相続財産としての評価を評価基本通達の定めによって行うべきものではなく、前記のその財産の取得価額自体によってこれを評価すべきであると主張している。このような評価方法を前提として、被告は、同物件の相続財産としての価額が、前記別表六の各物件の各「取得価額」欄記載の価額を合計した金額である五八億四二六〇万円(原告八稜の取得分が四三億〇五〇二万六六八八円、原告正枝の取得分が一五億三七五七万三三一二円)となるから、本件相続による原告らの相続税の課税価格、相続税額等が前記別表三及び同四記載のとおりとなるものとしているのである。

これに対して、原告らは、本件評価係争物件についても、その相続財産としての評価は評価基本通達の定めるところに従って行われるべきであるから、その価額は、これをいずれも自用の物件として評価した場合においても、別表六の各物件の各「評価通達に基づく路線価評価等の価額」欄記載の価額を合計した金額である一二億七三九八万八九三五円にとどまるものであり、しかも、このうち、別表五の一の符号、、及びの各土地並びに別表五の二の符号⑮、⑰、⑲及び⑳の各家屋(以下、これらの物件を「川越物件」と総称する。)並びに別表五の二の符号④から⑫までの各家屋(以下、これらの物件を「上郷物件」と総称する。)は、土地については「貸家建付地」として一八パーセントの減価を、家屋については「貸家」として三〇パーセントの減価を、それぞれ行うべきであるとするとともに、そもそも本件課税処分の経緯等からして、被告が本訴において本件評価係争物件の評価について右のような新たな主張を行うこと自体、許されないものであると主張している。

この点に関する原被告双方の主張の要旨は、次のとおりである。

1  被告の主張

(一) 相続税法(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの、以下同じ)二二条は、相続税の課税価格となる相続により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価によるものとしているが、この時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる客観的な交換価格をいうものと解される。しかし、財産の客観的な交換価格を算定することは必ずしも容易でないことから、評価基本通達は、課税の公平を期し、簡易迅速な処理を図るために、財産評価の一般的な規準としていわゆる路線価方式等の評価方式を設け、この規準によった評価を行うこととしている。したがって、簡易な時価の算定方式である右の路線価方式等による評価額が不合理であるとか、この方式によって評価をすることが課税の公平を害する結果となるという場合のように、評価基本通達に定められた評価方式によらないことが正当として是認される特別の事情がある場合には、他に当該財産の客観的な交換価格を評価する方法があるのであれば、同通達によらずに、この他の客観的な交換価格を評価する方法によって財産の評価を行うべきものである。

ところで、評価基本通達の路線価方式等による相続財産評価額は、評価の安全性を確保する等の趣旨から、一般に、実際の取引価額に比してごく控えめな評価額となっている。そのため、相続の開始に先立って金融機関等から資金の借入れを行って不動産を購入した場合には、この不動産の相続財産としての価額を路線価方式等によって行うこととすると、その評価額と実際の取引価額との差額に相当する分について相続税の課税標準が圧縮されることとなり、更にこれに加えて右の借入金債務が積極財産の評価額から控除して計算されることとなるので、右のような方策がとられなかった場合に比較して大幅に相続税の負担が軽減されることとなる。

このようなことからすれば、①相続開始前に、被相続人の健康状態の変化等を契機として、合理的な取得理由がないのに、借入金、預貯金の払戻等により資金を調達して不動産を購入し、②当該不動産を評価基本通達に定める路線価等によって評価した場合には実際の取得価額との間に著しい開差が生じ、③このことにより、当該不動産を路線価等で評価すると、右不動産を取得しなかった場合に比べて多額の相続税が減額されることとなり、課税の公平原則から看過し難い事態を招くという場合には、本来、形式的、一律的に評価基本通達に定められた評価方法で評価することが租税負担の実質的な公平を実現することになるとの右通達の目的・趣旨に反し、かえって相続税負担の著しい不平等を生じることとなる。したがって、このような場合には、同通達に定められた評価方法によらないことが正当として是認されるものというべきである。

(二) しかるに、本件評価係争物件は、いずれも、昭和六一年八月一九日に一郎が救急車で運ばれて入院するという同人の健康状態の変化を契機として、経済的にみて合理的な取得理由もないのに、多数の不動産を所有していた一郎について相続が開始した場合に右(一)のような方法で相続税を節減することを主たる目的として、相続開始の直前の時期に金融機関から多額の資金を借り入れて購入され、相続開始後原告らの手で他に売却処分され、その売却代金が右の借入金の弁済に充当されているというものである。そして、本件評価係争物件の相続財産としての評価を評価基本通達に定める路線価方式等の方法によって行った場合の価額と実際の取得価額との間には、別表六の「評価基本通達に基づく路線価評価等の価額」欄の合計欄にパーセントで示したとおり、著しい開差が生じることとなる。さらに、本件評価係争物件の相続財産としての評価を評価基本通達に定める路線価方式等の方法によって行うと、右のように借入金によって不動産を取得しなかった場合に比べて約三三億円もの多額の相続税が減額されることとなり、課税の公平原則から看過し難い事態を招来する。したがって、このような場合には、評価基本通達によらないことが正当として是認され、他の客観的な交換価格を評価する方法によって評価すべきものである。

そして、本件評価係争物件については、相続開始に近い時点で現実に行われた前記の購入の際の取得価額が、その客観的な交換価格を現しているものと解されるところである。

したがって、本件評価係争物件は、右の取得価額による方法によって評価すべきである。

(三) なお、本件評価係争物件の相続財産としての評価の方法に関する右の主張は、本訴において、原告らの主張(一)のとおり、被告が当初の主張を一部変更して新たに行うこととしたものである。しかし、課税処分の取消訴訟においては、当該課税処分において認定された課税標準及び税額がその総額において租税実体法規に定められているところを上回っていなければ、当該処分は適法とされるのであって、被告課税庁は、この訴訟においては、処分時や異議決定時の認定理由には拘束されず、その処分を客観的に根拠づける事実関係について随時新たな主張を提出できるものと解されるから、このような主張の変更には、特段の問題はないものというべきである。

(四) また、本件評価係争物件の一部には、原告らの主張するとおり、租税特別措置法三七条所定の特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例の適用を受けて取得したものが含まれているが、本件のように、専ら相続税の負担を回避する目的で取得したとの特別の事情がある場合には、本来、右特例を適用すべきではないので、その取得不動産の評価に当たっても、評価基本通達の定めによらず、その取得価額で評価すべきである。

(五) さらに、川越物件及び上郷物件は、いずれも本件相続開始時において現に賃貸の用に供されていたものではないから、右の物件の評価に当たって貸家建付地あるいは貸家としての減価を行うべきものではない。

2  原告らの主張

(一) 被告は、本件各更正及びこれに対する異議決定においては、その処分の具体的理由を示していなかったが、これに対する審査請求段階においてその理由を初めて明示し、本件評価係争物件のうち別表五の一の符号の土地(以下「菅生物件」という。)並びに同表の符号の土地及び別表五の二の符号の家屋(以下「田園調布物件」という。)を除くものについては評価基本通達によって評価すべきものとした上、右菅生物件及び田園調布物件は、一郎の意思によって取得されたものではなく、専ら原告らが一郎の名義を使用して取得したものであるから、これらの物件及びその取得に係る借入金債務は本件相続財産を構成しないものであるとし、本訴においても、当初はその主張を維持していた。ところが、その後被告はこの主張を撤回し、菅生物件及び田園調布物件が相続財産に含まれることを認めた上で、本件評価係争物件の評価を取得価額によって行うべきことを新たに主張するに至ったものである。

被告によるこのような主張の変更は、これまでの行政不服審査手続等において原告らが専ら右の各物件の取得が一郎の意思によるものではないとする被告の主張を争い、かつ、この争点について国税不服審判所長が判断をしたという経緯を無視するものであり、当初の処分理由を無に帰せしめるという意味において、処分に理由の付記が欠けていたという理由付記の瑕疵に当たる。仮にこれが理由付記の瑕疵には当たらず、処分理由の差し替えに当たるとしても、実質的にみると、このような理由変更前の処分と変更後の処分とは別異の処分となるものというべきであるから、租税法律主義の内容をなす手続保障の原則からしても、右の差し替えは許されないものというべきである。

また、被告は、これまで、相続土地の価額の評価については評価基本通達の定めによるべきであり、本件においては路線価方式等によるのが相当であるとの主張を一貫して行って来た。したがって、今回の被告の主張の変更は、このような従前の被告の主張を覆すものであり、禁反言の法理に抵触して許されないものというべきである。

さらに、被告の今回の新たな主張は、原処分の時点においても容易に行うことが可能であったものである。それにもかかわらず、被告が本訴の審理の途中の段階になって主張の変更を行ってきたのは、従前の主張では本訴において敗訴するものと判断し、これを避けるという意図によるものと考えられるところである。そうすると、このような主張の変更は、権利の濫用に当たるものというべきである。

(二) 仮に、右の主張の変更が許されるとしても、評価基本通達による相続財産の評価方法は、納税者にとって既に事実たる慣習あるいは行政先例法として確立しているものというべきであるから、本件評価係争物件について右通達以外の方法で評価することは許されない。

(三) 被告の主張は、一郎の一連の行為が相続税の回避行為に当たるとして、そのことを理由に本件評価係争物件の評価について評価基本通達による評価方法を適用することを否認しようとするものである。しかし、一郎の行為の主目的が相続税の回避ではなかったことは後記(六)のとおりであって、右行為は租税回避行為に当たらないし、仮に一郎の行為が租税回避行為に当たるとしても、このような否認は、租税法律主義の原則からして許されないものというべきである。すなわち、現行の税法には、一般的に租税回避行為を否認することができる旨の規定はおかれておらず、租税回避行為を否認して課税処分を行うことが許されるためには、個別にそのための法律上の根拠が必要なものとされているところ、本件のような場合について租税回避行為の否認を認める規定は存在しないからである。

(四) また、昭和六三年一二月の租税特別措置法の改正(同年法律第一〇九号)により同法六九条の四の規定が新設され、評価基本通達による不動産の評価額と実勢価額の差を利用して相続税の節税を図るという動きに対処するため、昭和六三年一二月三一日以降に開始した相続から、相続開始前三年以内に取得した相続不動産の価額を取得価額によって評価するという特例が新設されるに至った。この租税特別措置法の改正は、相続税法二二条の「時価」の意義について、確認的なものではなく創設的なものと解されるのであって、このことからしても、右昭和六三年一二月三一日以前に開始した相続に係る財産について、取得価額で評価することは許されないものというべきである。

(五) 被告は、相続財産としての評価を評価基本通達によらず他の方法で行うことが是認される場合の要件として、被告の主張(一)の①ないし③のとおり主張するが、右の要件はいずれも抽象的なものであって、いかなる場合に評価基本通達によらないことが是認されるのか不明確であり、右のような解釈は課税庁の恣意的運用を許すことになる。したがって、右の解釈は、課税基準の明確性、租税法律主義に反して許されない。

(六) 一郎による本件評価係争物件の取得行為は、一面において相続税の節税対策として行われたものではあるが、その主たる目的は、自己所有の不動産から低廉な地代収入しか得ることができていなかった一郎が、原告らの協力のもとに、所有不動産について、より高額の地代収入が得られるような物件への買換えを行い、あるいは当時の地価高騰の傾向のもとで譲渡益を得ることにあったのであって、ごく通常の経済取引行為の性質をもつものであるから、殊更に租税回避を目的とした不当な行為と目されるべきものではない。現に、一郎は、借入金で不動産を購入するばかりではなく、生前において一四億円弱に相当する不動産の売却を行っているのである。したがって、仮に、被告の主張(一)の要件の下で評価基本通達によらないで相続財産を評価することが許されるとしても、本件においては、右要件を欠き、評価基本通達に定められた評価方式によらないことが正当として是認されるとはいえないものである。

(七) 本件評価係争物件のうち、別表六の符号「土・家」のうちの家屋(家)、「土〜」、「土・家」のうちの家屋(家)及び「土〜・家⑬〜」の各物件(以下「買換特例物件」という。)は、一郎がかねてから所有していた東京都中央区日本橋茅場町あるいは同区銀座所在の各不動産を売却した代金で取得したものであり、租税特別措置法三七条に規定する、特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例の適用を受けて取得したものである。したがって、相続財産の評価について被告の主張(一)によるとしても、これらの物件を取得価額で評価することはできない。

(八) 本件評価係争物件の取得価額は、本件相続開始時における客観的な交換価格とは相当かけ離れた価額となっていたものである。

すなわち、これらの物件は、不動産取引業者の木下誠(以下「木下」という。)の仲介によって購入したものであるが、木下は、一郎及び原告らが不動産の価額に無知なのに乗じて、近隣の取引価額より割高な価額でこれらを一郎に購入させていた。また、田園調布物件は、その擁壁に欠陥があったため、その改築に一億八〇〇〇万円の支出を要し、また、仲介業者からもその後四五〇〇万円を返還させている。さらに、上郷物件は、取得価額は別表六のとおり三億〇五九〇万円であるが、取得後に物件の瑕疵等が発見されたことにより、五〇〇〇万円の値引きをさせている。

したがって、仮に、本件評価係争物件の評価を評価基本通達によらず客観的な交換価格によって行うとしても、瑕疵がない場合の時価自体が取得価額より相当低い額であったものと考えられる上、田園調布物件及び上郷物件の交換価格は、これに加えて少なくとも右の各金額を控除したものとなるものというべきである。

(九) さらに、川越物件及び上郷物件については、次のような理由から、貸家建付地あるいは貸家としての減価が行われるべきである。

すなわち、右の物件は、いずれも賃貸用のマンション(川越物件が四戸、上郷物件が九戸)であったが、本件相続開始時においてはたまたま空家となっていたにすぎず、川越物件については、不動産業者との間で賃貸専任媒介契約を締結して、本件相続開始時においてもその賃貸の媒介を右業者に委任しており、一郎としては、右業者に建物を賃貸に供する等様々な義務を負い、契約期間中は任意にこの契約を破棄することはできなかった。また、上郷物件については、被告も、本件各更正の段階では、貸家として評価を行っていたのである。このような事情からすれば、右の各物件については、土地については、貸家建付地として一八パーセントの減価を、家屋については貸家として三〇パーセントの減価を、それぞれ行うべきである。

第三争点に対する判断

一被告による課税根拠の主張の変更の許否について

原告らの主張(一)のとおり、本件係争評価物件の相続財産としての評価の方法に関する被告の主張は、当初の主張を一部変更したものであることは当事者間に争いがないところ、これに対して、原告らは、右のような主張の変更は、理由付記の瑕疵に当たり、租税法律主義の内容をなす手続保障の原則又は禁反言の法理に抵触し、あるいは権利の濫用に当たるものとして、許されないと主張する(原告らの主張(一))。

しかしながら、本件のような課税処分の取消訴訟においては、専ら被告のした課税処分の客観的な適否がその審判の対象となるのであり、右の課税処分において認定された課税標準及び税額がその総額において租税実体法規に定められたところを上回っていなければ、その処分は適法とされることになり、したがって、被告課税庁は、原処分時や異議決定時の処分理由に拘束されることなく、当該課税処分の客観的な課税根拠について訴訟の段階で随時新たな主張を行うことができるものと解するのが相当である。また、右の理由の変更が理由付記の瑕疵に当たるとは到底解し得ないし、本件における被告の前記のような主張の変更が、禁反言の原則からして許されないものとし、あるいはこれが権利の濫用に当たるものとすべきような事情も見当たらない。したがって、この点に関する原告らの主張はいずれも採用できない。

そこで、以下、本件評価係争物件の評価方法に関する被告の主張について検討する。

二本件評価係争物件の相続財産としての評価の方法について

1  相続税法二二条は、相続税の課税価格となる相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しているところ、右の時価とは相続開始時における当該財産の客観的な交換価格をいうものと解するのが相当である。

しかし、財産の客観的な交換価格というものが必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務上は、相続財産評価の一般的規準が評価基本通達によって定められ、そこに定められた画一的な評価方式によって相続財産を評価することとされている。これは、相続財産の客観的な交換価格を個別に評価する方法をとると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価価額が生じることが避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあること等からして、あらかじめ定められた評価方式によりこれを画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由に基づくものと解される。

そうすると、特に租税平等主義という観点からして、右通達に定められた評価方式が合理的なものである限り、これが形式的にすべての納税者に適用されることによって租税負担の実質的な公平をも実現することができるものと解されるから、特定の納税者あるいは特定の相続財産についてのみ右通達に定める方式以外の方法によって評価を行うことは、たとえその方法による評価額がそれ自体としては相続税法二二条の定める時価として許容できる範囲内のものであったとしても、納税者間の実質的負担の公平を欠くことになり、原則として許されないものというべきである。

しかし、他方、右通達に定められた評価方式によるべきであるとする趣旨が右のようなものであることからすれば、右の評価方式を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、富の再分配機能を通じて経済的平等を実現するという相続税の目的に反し、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかである等の特別の事情がある場合には、例外的に他の合理的な時価の評価方式によることが許されるものと解するのが相当である。このことは、右通達において「通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定められていることからも明らかなものというべきである。

そもそも、相続税法二二条にいう「時価」が、相続開始時における当該財産の客観的な交換価格をいうものと解すべきことは前記のとおりであり、しかも、この客観的な交換価格というものは必ずしも一義的に確定され得るものではなく、当然に一定の幅をもった概念として理解されるべきものであることはいうまでもないところである。そうすると、評価基本通達による評価額というものも、右のような一定の幅をもった時価の概念に含まれる一つの具体的な価額にとどまるものと考えられ、これ以外の方法によって算定された具体的な価額が、相続税法二二条にいう「時価」の概念から一切排除されるものと解すべき法律上の根拠はない。すなわち、右評価通達による評価方法以外の方法によって算定された価額であっても、それが右のような意味での「時価」の概念の範囲に含まれるものであるときには、それもまた相続税法二二条にいう「時価」に該当するものとすることに、法解釈上の支障はないものと考えられるところである。したがって、右のとおり、他の納税者との間での実質的な税負担の公平を図るという合理的な理由が存在している場合に、評価基本通達に定められた方法という通常の方法によるのではなく、他の客観的な交換価格によるという特別の方法による評価を行うことも、何ら法の規定に反するものではないと考えられる。

2(一)  ところで、本件評価係争物件は、前記のとおり、いずれも生前の一郎が、別表六に記載のとおり、同表の「契約日」欄記載の日に、「取得価額」欄記載の価額で「取得先」欄記載の相手方から買い受けて取得したものであるが、右の各物件の取得の経緯等に関する次の(1)ないし(4)の事実については、いずれも当事者間に争いがない。

(1) 原告らは、昭和五五年九月に一郎の養子となり、その相続人としての地位を取得したが、一郎が不動産を主とする高額な財産を所有していたことから、一郎が死亡した場合の相続税の負担を軽減するための方策を案じていた。そのため、昭和六〇年一〇月には有限会社谷口コーポレーションを設立して原告八稜がその取締役に就任し、同社が、一郎との間で業務委託契約を締結して、一郎の財産の管理運用を行うこととなり、前記の不動産取引業者である木下の発案によって「谷口家相続財産対策のための事業計画」(<書証番号略>)なるものが策定され、一郎が死亡した場合の相続税節減のための種々の対策が考えられていた。

また、原告らは、右のような方策の一貫として、かねて一郎と取引のあった第一勧業銀行西銀座支店に支援を要請し、同支店では、これに応じて「谷口一郎氏相続対策プロジェクト」なるものを結成した。

(2) 一郎は、昭和六一年八月一九日、心筋梗塞による心不全のため日本赤十字社医療センターに入院し、同年九月一九日にはいったん退院できるまでに回復したものの、翌昭和六二年一月二六日に体の不調を訴えて、同月二九日にセントラル病院に入院し、同年二月一四日に死亡し、本件相続が開始するに至った。

(3) 昭和六一年四月ころから、一郎の名義で、別表七記載のとおり、本件評価係争物件を含む多数の不動産が頻繁に購入されるようになり、特に右の昭和六一年八月一九日の一郎の入院以降その購入物件数が増加し、これに伴って、別表八の一及び二記載のとおり、銀行からの資金の借入れも頻繁に行われるようになった。なお、別表八の一の第一勧業銀行西銀座支店からの融資は、同支店の前記のようなプロジェクトに従って行われたものであるが、価額が三〇億円近い田園調布の物件については、同支店がその購入資金の融資に応じなかったことから、原告らは、前記木下の紹介により、住友銀行人形町支店に融資の申込みを行い、別表八の二記載のとおり、三〇億円に上る融資が行われるに至ったものである。

(4) 右のように購入された本件評価係争物件は、別表七のとおり、本件相続開始直後にその多くが売却され、その余の物件も逐次売却されて、現在、本件評価係争物件のうち原告らがなお所有しているのは、同表の土及び土(取得価額合計七億五五七六万円)のみである。また、銀行からの右借入金も、別表八の一及び二記載のとおり、本件相続開始直後から、逐次そのほとんどが完済された。

(二) 右一連の事実、とりわけ本件評価係争物件の取得時期、その資金借入行為及びその額並びに右不動産の取得行為の基となった「谷口家相続財産対策のための事業計画」(<書証番号略>)の記載に照らせば、右のような一郎による同物件の取得は、本件相続の開始が近いことを予期した一郎及び原告らによって、主として、同物件の評価基本通達に定められた方法による評価額と現実の取引価額との間に生じている開差を利用して相続税の負担の軽減を図るという目的で行われたものであることが明らかというべきである(<書証番号略>は、木下が、一郎及び原告八稜の意思とかけ離れて作成したものであって、この書証の記載から必ずしも本件取得行為における右のような目的を認定することはできないとの原告らの主張は、到底採用できない。)。そして、右目的に加え、前記のように、多数の、取得価額の総額五八億四二六〇万円もの不動産を、短期間に、とりわけ一郎の入院後に集中して購入していること、その資金として約二か月の間に、借換分を除いても合計約五六億五一〇〇万円もの巨額の銀行借入れをしていること、その金利は月額約三〇〇〇万円であって、一郎の経常収入だけでは弁済不能であったこと(原告八稜の本人尋問における供述により認められる。)等に照らせば、同物件の取得行為は経済的合理性を無視した異常なものといわざるを得ない。

また、本件評価係争物件を評価基本通達によって評価した場合、その取得価額との間には、別表六のとおり著しい開差が生じる。

そして、原告らに対する相続税の課税に当たって、本件評価係争物件の価額を評価基本通達に基づく評価額(右物件をいずれも「自用」のものとして計算した評価額)である一二億七三九八万八九三五円と評価してこれを相続財産に計上し、その購入資金である前記の借入金のうち別表八の一及び二記載のとおりの本件相続開始時点における未返済元金合計四八億九九八一万六一七〇円をそのまま相続債務として計上すると、右借入金は同物件の価額から控除し切れないことから、その差額が他の積極財産の価額から控除されることとなる。その結果、本件において評価基本通達により本件評価係争物件を評価すると、前記のような方法で同物件を取得しなかった場合と比べて、課税価格で約四四億円、相続税額で約三三億円も低額になる(<書証番号略>)。

(三) 右のように、経済的合理性なくして、相続人によって相続開始直前に借り入れた資金で不動産を購入するという行為が行われた本件の場合についても、画一的に評価基本通達に基づいてその不動産の価額を評価すべきものとすると、右の購入行為をしなかった場合に比べて相続税の課税価格に著しい差を生じ、当該不動産以外に多額の財産を保有している被相続人の場合には、結果としてその他の相続財産の課税価格が大幅に圧縮されることになる。このような事態は、他に多額の財産を保有していないため、右のような方法によって相続税負担の軽減という効果を享受する余地のない他の納税者との間での実質的な租税負担の公平を著しく害し、富の再分配機能を通じて経済的平等を実現するという相続税の目的に反するものである。したがって、本件評価係争物件については、その相続財産としての評価を評価基本通達によらないことが相当と認められる前記の特別の事情がある場合に該当するものとして、右相続不動産を右の市場における客観的な交換価格によって評価することが許されるものと解するのが相当である。

(四)  これに対し、原告らは、本件評価係争物件の取得の主たる目的は、購入した物件をその後転売して利益を上げる等の合理的な資産運用にあり、相続税対策の目的は従的なものであったと主張し(原告らの主張(六))、原告八稜も、本人尋問において、ほぼこれにそう供述をしている。そして、現に、別表七記載の目黒区東ケ丘の宅地は、昭和六一年六月二一日に購入されたものの、本件相続の開始する前の同年一〇月に他に売却されており、また、田園調布物件も、昭和六一年九月二五日の取得後間もない同年一一月ころには既に不動産業者に売却の仲介が依頼されるに至っており、菅生物件及び上郷物件も売りに出されていたこと等、右原告らの主張にそう事情も認められる(<書証番号略>)。

しかし、前記のとおり、本件不動産の購入の経緯等に照らせば、本件評価係争物件の取得の主たる目的は、相続税の負担の軽減を図ることであることが優に認定できるのであって、これに反する右原告八稜の本人尋問における供述は到底採用できない。右のような事情に照らせば、右物件の取得行為については、一面において資産運用目的もあったことは否定できないが、係る目的が従的に併存していたとしても、そのことは、前記のような他の納税者との間での実質的な税負担の公平を図るという見地から客観的な交換価格によって相続財産としての評価を行うことの正当性を否定すべき理由にはならないものというべきである。

(五)  ところで、右原告八稜の供述並びに<書証番号略>に、当事者間に争いのない事実を総合すれば、一郎の昭和六一年分の所得税の課税においては、同人がかねてから所有していた東京都中央区日本橋茅場町及び同区銀座所在の各不動産の昭和六一年における売却(その価額合計約一三億八〇〇〇万円)は、本件評価係争物件のうちの買換特例物件の取得(その価額合計約一一億七〇〇〇万円)との関係において、租税特別措置法三七条に規定する特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例の適用を受けたことが認められる。

一般に、前記(二)のような考え方からすれば、評価基本通達に定められた評価方法以外の客観的な交換価格によって相続財産の評価を行うことが、実質的な税負担の公平を図るという見地から正当として是認されることとなるのは、被相続人が敢えて銀行から資金を借り入れて債務を負担し、その借入金によって不動産を取得することにより、その債務を相続債務として計上し、結果としてその債務額を他の積極財産の価額から控除されるという利益を享受することとなる場合であることを要するものである。したがって、銀行からの借入金によって購入されたものではなく、他の不動産を売却して得た代金を資金として取得されたため、右のような方法による相続税の節減に何ら寄与しない物件については、その相続財産としての価額を右通達以外の客観的な交換価格によって評価することを正当化する理由はなく、その評価は、通常の場合と同様に、右通達に定める方法によって行われるべきものである。

しかし、租税特別措置法三七条の規定は、譲渡所得の課税の特例の適用の要件として、売却物件と購入物件の個別の資金的な対応関係を要求しているわけではないのであって、本件評価係争物件の購入資金の一部が、一郎が従前所有していた不動産を売却して得た代金で賄われ、一郎の所得税の課税に当たり買換特例物件の取得について同条の特例が適用されたとしても、前記(一)において認定した諸事情に照らせば、買換特例物件は右売却物件の代金を資金として取得されたものではなく、買換特例物件を含む本件評価係争物件全体が、主として銀行からの借入金による資金調達によって購入されたものとみるべきである。すなわち、前記のような方法による原告らの相続税の軽減については、本件評価係争物件全体がこれに寄与しているのであって、かかる事情の認められる本件においては、買換特例物件の取得に右の特例が適用されたからといって、同物件について、その評価を評価基本通達により行うべきものと解することはできないものというべきである。したがって、原告らの主張(七)は採用できない。

3(一)  ところで、原告らは、評価基本通達による相続財産の評価方法が、既に事実たる習慣あるいは行政先例法として確立しているから、これと異なる方法による評価をすることは許されないと主張する(原告らの主張(二))。

しかし、専ら法律の定めるところに従って課税が行われるべきであるとする租税法律主義の原則(憲法八四条)の支配する租税法の分野においては、例え納税者にとって有利な内容のものであっても、法律の定める範囲より更にその内容が限定されているという意味で法律の定めとは異なる内容の行政上の先例が、法律と同一の拘束力を持った慣習あるいは先例法として機能するという余地を認めることは困難なものといわなければならない。

(二)  また、原告らは、被告の主張が、法律上の根拠なしに租税回避行為を否認しようとするものであるところ、一郎の行為は租税回避行為に当たらないし、個別的な根拠規定を欠く否認は租税法律主義の原則からして許されないとも主張する(原告らの主張(三))。

しかし、被告の主張は、相続税法二二条の規定にいう「時価」の意義をどのように解釈すべきかという同法の解釈論であって、原告らの行った私法上の行為の効果等を否認しようとしたりするものでないことは、その主張から明らかであるから、原告らのこの主張は失当である。

(三)  そして、原告らは、租税特別措置法六九条の四の規定により、相続税法二二条の「時価」についての解釈を創設するものであるから、同条の施行前の相続に係る本件評価係争物件を、取得価額で評価することは許されないと主張する(原告らの主張(四))。

しかし、租税特別措置法六九条の四の規定は、特定の相続不動産について、その相続税の課税価格を、その「時価」ではなく、一律にその取得価額とする点で、まさに相続税法二二条の規定の特例を定めたものと解されるところ、本件評価係争物件の評価方法に関する被告の主張は、この租税特別措置法の特例規定とは関わりなしに、専ら相続税法二二条の規定にいう「時価」の意義に関する解釈論をいうものであるから、原告らのこの点に関する主張も採用できない。

(四)  さらに、原告らは、相続財産の評価に関する前記判示のような考え方だと、いかなる場合に評価基本通達によらず、他の客観的な交換価格によって相続財産を評価すべきこととなるのか不明確であるから、課税標準の明確性に反するとも主張する(原告らの主張(五))。

しかし、法二二条にいう「時価」が一定の幅を持った概念と解されるからといって、このことから直ちに同条の規定が課税標準の明確性や、その基礎となる租税法律主義に反するとすることは困難である。そうすると、本件評価係争物件を客観的な交換価格によって評価するという評価方法が同条にいう時価の評価方法として許容されるものであり、しかも本件においてこのような評価方法を採用することについて前記のような合理的な理由が認められる以上、このような評価が課税標準の明確性の要請に反するものとして許されないとすることもできないものというべきである。

三本件評価係争物件の相続財産としての価額について

1  以上に判示したとおり、本件評価係争物件はいずれも評価基本通達によらず、他の客観的な交換価格により評価すべきこととなる。そして、右の客観的な交換価格は、本件の場合、いずれもその取得価額を下らないものと推認される(ただし、原告らの主張(八)における、田園調布物件及び上郷物件に関する値引分等の点を除く。)。

これに対し、原告らは、本件評価係争物件は、木下が近隣の取引価額より割高な価額で一郎に購入させたものであると主張する(原告らの主張(八))が、この主張は、これを具体的に裏付ける証拠を欠き、到底採用できない。

また、原告らは、川越物件及び上郷物件は、いずれも貸家又は貸家建付地としての減価をすべきであると主張する(原告らの主張(九))けれども、右各物件が本件相続開始当時現に賃貸されていなかったことは当事者間に争いがないから、たとえその主張するように不動産業者との間に賃貸専任媒介契約が締結されていたとしても、右物件の交換価値は自用の場合に比べて下落するところはなく、右物件は自用のものとして評価されるべきものである。右原告らの主張は独自の見解であって、失当という外はない。

2  そうすると、原告らの課税価格及び納付すべき税額は、いずれも別表三のとおりとなり、いずれも本件各更正における額をはるかに上回ることとなる。

なお、原告らは、田園調布物件及び上郷物件については、その客観的な交換価格は、取得価額から値引分等(田園調布物件については合計二億二五〇〇万円、上郷物件については五〇〇〇万円)を差し引いた額であるとも主張している(原告らの主張(八))が、課税価格についての右認定に照らせば、仮に右主張に理由があるとしても、これによる課税価格及び納付すべき税額は、結局本件各更正の額を上回ることとなる。

四結論

したがって、いずれにせよ、本件各更正及び本件各決定は適法なものということとなり、原告らの請求はいずれも棄却すべきこととなる。

(裁判長裁判官秋山壽延 裁判官原啓一郎 裁判官近田正晴)

別表三ないし八の二<省略>

別表

一 本件課税処分の経緯(谷口八稜)

(単位  円)

項目

年月日

課税価格

納付税額

過少申告加算税

重加算税

当初申告

六二・八・一三

一、二七一、七二七、〇〇〇

八〇〇、二二九、二〇〇

修正申告

六三・一二・二三

一、三三七、二九〇、〇〇〇

八四八、七五一、四〇〇

賦課決定

元・二・二〇

一、七三七、〇〇〇

四、一三一、〇〇〇

更正・

賦課決定

元・二・二〇

三、三九七、五五〇、〇〇〇

二、四二一、九九八、五〇〇

一一九、〇五〇、〇〇〇

異議申立

元・三・八

一、三三七、二九〇、〇〇〇

八四八、七五一、四〇〇

一、七三七、〇〇〇

四、一三一、〇〇〇

審査請求

元・六・九

一、三三七、二九〇、〇〇〇

八四八、七五一、四〇〇

一、七三七、〇〇〇

四、一三一、〇〇〇

審査裁決

二・四・一三

棄却

別表

二 本件課税処分の経緯(谷口正枝)

(単位  円)

項目

年月日

課税価格

納付税額

過少申告加算税

重加算税

当初申告

六二・八・一三

二八、九二七、〇〇〇

一八、一六八、二〇〇

修正申告

六三・一二・二三

二八、九二七、〇〇〇

一八、三七五、〇〇〇

賦課決定

元・二・二〇

一〇、〇〇〇

更正・

賦課決定

元・二・二〇

八二六、三五四、〇〇〇

五八九、五四五、四〇〇

五六、二一八、五〇〇

異議申立

元・三・八

二八、九二七、〇〇〇

一八、三七五、〇〇〇

一〇、〇〇〇

審査請求

元・六・九

二八、九二七、〇〇〇

一八、三七五、〇〇〇

一〇、〇〇〇

審査裁決

二・四・一三

棄却

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